ぶつかる(動詞)

ある朝
テレビ画面に映し出された一人の娘さん
日本で最初の盲人電話交換手
その目は
外界を吸収できず光を  明るく反映していた
何年か前に失明したと言うその目は。。。。。
司会者が通勤ぶりを紹介した
『出勤第一日目だけお母さんに付き添ってもらい、そのあとは
ずっと一人で通勤してらっしゃるそうです』
『お勤めを始めてから  今日で一ヶ月
すしずめ電車で片道小一時間。。。。。』
そして聞いた
『朝夕の通勤は大変でしょう』
彼女が答えた
『ええ  大変は大変ですけど  あっちこっちに
ぶつかりながら歩きますから、なんとか。。。。。』
『ぶつかりながら。。。。。ですか?』と司会者
彼女は微笑んだ
『ぶつかるものがあると、かえって安心なのです』
目の見える私は、ぶつからずに歩く
人や物を、避けるべき障害として
盲人の彼女は  ぶつかりながら歩く
ぶつかってくる人や物を
世界から差し伸べられる、荒っぽい好意として
路上のゴミ箱や
ボルトの突き出ているガードレールや
身体を乱暴にこすって過ぎるハンドバッグや
座りの悪い敷石やいらいらした車の警笛
それはむしろ
彼女を生き生きと緊張させるもの
したしい障害  存在の肌ざわり
ぶつかってくるもの全てに
自分を打ち当て
火打石のように爽やかに発火しながら
歩いて行く彼女
人と物との間に
しめったマッチ棒みたいに、一度も発火せず
ただ、通り抜けて来た私
世界を避けることしか、知らなかった私の
鼻先に、不意に現れて
したたかにぶつかって来た彼女
避けようも無く
もんどり打って尻餅をついた私に
彼女はささやいてくれたのだ
ぶつかりかた  世界の所有術を
動詞『ぶつかる』が
そこにいた
娘さんの姿をして  ほほえんで
彼女のまわりには
物たちが  ひしめいていた
彼女の目配せ一つですぐに唱いだしそうな
したしい聖歌隊のように
(そんな彼女をみんな、魔女っ子と呼ぶ)
(コーヒータイムの独り言)


この記事へのコメント
「ぶつかる」を読ませて頂き、ありがとうございます。
今日の私とってとても大切な事が書いてありました。

感謝^^して・・・
Posted by sweetkana♪ at 2006年09月22日 05:09
盲目の方に必要なのは「同情」でなく“友情”!!
“愛情”では偽善者になりそうです・・・
Posted by 和の森 at 2006年09月22日 22:17
sweetkana様
この人の詩には、心に迫る凄さを感じる。
日常のなにげない、世界の中で。
Posted by ichio at 2006年09月22日 23:54
和の森様
同情、友情、愛情どれも心の中に
背中合わせに、存在するから。
そのどれかであり、そのどれかでもない
なんなんだろう!考える。
Posted by ichio at 2006年09月23日 00:01
心を読み取らせてもらいました。
人と人は物質や条件でなく、おもいやる心で結ばれます。相手を思う気配だけでも素敵な毎日になりますね。
Posted by イチロー at 2006年09月23日 10:20
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