夕焼けの唄

ichio

2006年09月18日 22:13

いつものことだが、電車は満員だった。
そして、いつものことだが
若者と娘が腰をおろし、としよりが立っていた。
うつむいていた娘が立って、としよりに席をゆずった。
そそくさととしよりが座った。
礼も言わずにとしよりは次の駅で降りた。
娘は座った。
別のとしよりが娘の前に、横合いから押されて来た。
娘はうつむいた。
しかし、又立って、席をそのとしよりにゆずった。
としよりは次の駅で礼を言って降りた.
娘は座った。
二度あることは、と言う通り
別のとしよりが娘の前に押し出された。
可哀想に、娘はうつむいて
そして今度は席を立たなかった。
次の駅も、次の駅も
下唇をキュッと噛んで、身体をこわばらせてー。
僕は電車を降りた。
固くなってうつむいて、娘はどこまで行ったろう。
やさしい心の持ち主は
いつでも、どこでも、われにもあらず受難者となる。
何故って、やさしい心の持ち主は
他人のつらさを自分のつらさのように感じるから。
やさしい心に責められながら
娘はどこまでゆけるだろう。
下唇を噛んで、つらい気持ちで
美しい夕焼けも見ないで。
(切り絵の合間のいっぷくでした。長々とすみません)